2021年11月
日本地域経済学会 会長 鈴木 誠
愛知大学 地域政策学部
2021年11月14日、第33回日本地域経済学会総会で会長に選出された鈴木 誠です。山川充夫先生から会長職を引き継ぎ、これから2年間本学会の活動と運営に貢献していきますので、ご支援・ご指導の程、宜しくお願い致します。
日本地域経済学会の創設は1989年。会則の施行は1989年10月です。ところが、私は学会が創設された経緯などを知りません。1990年10月に日本財政学会で初報告をした際も、本学会のことはまったく知りませんでした。ですから、私が会長としてはじめにしたいことは、本学会創設の経緯を知り、歴代の会長が経験された学会運営や研究交流のご苦労を学び直すことです。
手元には、1990年6月刊行の「地域経済学研究」創刊号があります。同書を初めて手にしたのは、本学会の理事長時代に学会誌の在庫確認をしていた時でした。この機会に、第39・40合併号として学会創設30周年を記念した特集号と共に、じっくりと読み直してみたいと思います。本学会の創設者や歴代の会長が、学会の目的をどのような理由で設け、目的を達成するために、学会の舵取りをどのように工夫されてきたのか。そこが、会長職を引き継ぐ者としては、もっとも関心を寄せる点でもあります。
私が日本地域経済学会に参加するようになったのは、第13回京都大会(2001年)からだったと記憶しています。地域系の他学会にも参加していましたが、次第に本学会の活動内容に一番引き寄せられていきました。その出発点が京都大会だったと記憶しているのです。メインシンポジウム(今日の共通論題)は「21世紀地域経済学の課題と展望」で、宮本憲一先生が記念講演をされました。その後の共通論題をざっと紹介してみましょう。
第14回岐阜大会(2002年)は「まちづくりと地域経済の再生」、第15回札幌大会(2003年)は「公共事業の転換と地域政策のオールタナティヴ」、第16回横浜大会(2004年)は「東アジア諸国における地域的不均等発展」、第17回松山大会(2005年)は「戦後日本の国土計画の決算と新しい地域政策の展望」、第18回福島大会(2006年)は「地方分権時代の地域政策―改正まちづくり3法と地域再生」、第19回豊田大会(2007)は「地域経済の活性化と少子化・格差問題」、第20回岡山大会(2008年)は「地域経済の構造変化と国土形成計画・道州制」、第21回奈良大会(2009年)は「グローバル危機がもたらしたローカル経済への影響と対応」、第22回岐阜大会(2010年)は「低炭素社会のための環境政策と地域経済の再生―環境と経済の地域政策統合の条件を探る―」、第23回金沢大会(2011年)は「東日本大震災と日本経済・地域経済」、第24回高知大会(2012年)は「人口減少社会と地域再生」、第25回東京大会(2013年)は「グローバル都市東京と地域経済」、第26回札幌大会(2014年)は「自治体再編と地域経済の持続可能性―『平成の大合併』から15年―」、第27回大阪大会(2015年)は「地方創生と地域経済循環―持続可能な地域経済の構築を目指して―」、第30回宮崎大会(2016年)は「震災・災害への地域経済学的接近―『災害の地域経済学』の構築にむけて―」、第29回宮城大会(2017年)は「国土強靭化/公共事業と地域経済社会」、第30回島根大会(2018年)は「働き方改革と地域経済」、第31回京都大会(2019年)は「地域経済学の回顧と展望」(学会創設30周年記念大会)、第32回横浜大会(2020年)は「インバウンド観光・IRと地域経済」、そして、第33回福島大会(2021年)が「コロナ危機と地域経済/国際比較の視点から展望する」でした。
大会に出て刺激を受けながら、研究課題を具体化し、研究成果を地域の運動や政策の現場へ還元してきた会員も多いのではないでしょうか。大会では、共通論題以外に地域公開シンポジウムをはじめ自由論題報告やセッション報告(2017年開始)なども設けられ、この機会を通じて研究交流の機会が随分増えたように思います。また、エクスカーションでは開催地域での地域づくりの現場の苦悩に学ぶ機会も得ることができ、大学教育や自治体政策の現場に活かすことができるようになりました。
特に、先に長々と紹介した共通論題は、いま会員に届けたい旬の話題をテーマに掲げ、学会の目的である「地域経済の民主的発展」に寄与することを念頭に置いて取り組まれてきました。時々のテーマは会員ひとりで答えを導き出せるものではありません。多数の会員が理論・分析・政策・歴史の諸領域から研究してきた成果を持ち寄り、報告や討論を重ねながら答えを探ってきたように思います。それでも、答えが一つにまとまることは少なかったように思います。そうであろうと、地域経済学を志す研究者が大会に集い、様々な方法論を駆使して地域経済の民主的発展の意味を追求し、その成果を報告し合い、研究交流をはたしながら成果や課題を共有できることが、新たな発見であり、学会の醍醐味であるように思います。
近年では支部研究会が活発に開かれ、関東支部、西日本支部に続き北海道支部にも会員が集い、それぞれのブロックの地域経済の構造・課題・政策をグローバルな視点から、また他学会との交流を通じて解明し、「地域経済の民主的発展」を展望しようとしてきました。さらに2016年からは防災学術連携体に参加し、自然科学の研究者と研究交流を続け、自然災害全体の防災減災に向けた地域政策課題の究明に取り組んでいます。経済学関連の学会交流では、日本経済学会連合へ参加し、62学会との学術交流を始めるまでになってきました。
本学会の歩みを振り返ると、こんな想いにかられます。すなわち、日本地域経済学会が1989年に掲げた目的への接近には、地域問題の現場に常に足を運ぶ労をいとわず、会員相互で研究交流を重ね、市民・産業界・行政とも臆することなく交流し、他学会の研究者や海外の研究機関とも知見を共有していくことが重要である、ということです。ただ、こうした視点は何ら目新しいものではなく、既に本学会の会員が実践してきたことです。私はそのことにあらためて気付きを得ただけであると考えています。
このような気持ちを抱きながら、人間らしい営みを直につくる一次産業へ携わるような気持ちで地域研究に心を躍らせ、289名(2021年12月現在)もの会員の皆さんと共に「地域経済の民主的発展」に貢献しながら、混とんとした現代社会を切り拓いていきたいと願っています。性別、年齢、職域を気にせず、会員の誰もが対等な関係に立ち、日本地域経済学会に集えるように理事長をはじめ理事の皆さんと共に運営していきたいとも思います。どうぞ、よろしくお願い致します。
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